振動試験機

汎用振動試験、多軸振動試験、複合振動試験、起振機

信頼性の高い製品開発に欠かせない振動試験機は、小型の電子機器から航空・宇宙産業までさまざまな分野で使われています。無振動の環境で使われる製品は少なく、JIS規格が存在するなど多くの製品において振動試験は必須といえるでしょう。そんな振動試験機について解説します。

振動試験機とは?

振動試験機とはどのようなものなのかについて解説します。

振動を与えたときの動作をチェックするための装置

振動試験機とは、その名の通り振動が発生したときの状態を機械的に再現するための装置です。

さまざまな方向、強さ、周期の振動を再現し、振動が起きたときでも製品が正しく動作するか確認するために使われます。

なぜ振動試験が必要なのか

振動試験をおこなう理由は、実動作環境で製品が長期にわたって正しく動作することを確認するためです。

一般の方にとって一番身近な自動車を例に挙げると、自動車はエンジンそのものが振動したり、凹凸が激しい道を走るときに振動が発生したりします。強い振動が加わったときでも自動車が正しく動作することを確認せずに出荷した場合、立ち往生する車が多数出ることになるでしょう。

また、すぐに影響が出なくても振動によって徐々にねじが緩むなどし、ある程度時間が経ってから故障が起きる可能性もあります。

このような現実に起こりうる振動を製品に加えた場合でも製品が正しく動作することを確認するため、振動試験機が用いられているのです。

JIS規格で定められている振動試験

一口に振動といってもその方向や種類、周期はまちまちです。このため、製品・分野ごとにどのような振動試験をおこなうべきかがJIS規格として定められています。

その種類は自動車、二次電池、包装貨物、輸送用コンテナなど多岐にわたっており、それぞれの製品が受ける振動を想定した試験が必要です。

このように製品・分野ごとのJIS規格が定められていることにより、客観的かつ科学的な振動耐性の評価をおこなうことができます。

振動試験機はJIS規格に沿った試験をおこなうための機能が搭載されているものが大半です。

振動試験機の応用範囲

自動車以外でも振動試験機はさまざまな製品で使われています。

身近なところでは多くの方が持ち歩くようになったスマートフォンがその一例として挙げられるでしょう。スマートフォンに使われる電子回路にはハンダづけが使われますが、振動によってハンダがはがれないか確認する必要があります。

また、コネクタの接続やねじ止めについても振動によって緩んだり取れたりしないかテストをしなくてはいけません。

さらに、1つの不具合が重大な事故につながりかねない航空・宇宙分野でも振動試験は重要であり、機械的な振動のほかにロケット打ち上げ時の音圧による振動試験もおこなわれています。

少し変わったところでは、振動計や地震計の校正、異物やごみの除去といった分野でも利用可能です。

振動試験機の種類

振動試験機にはさまざまな種類があります。動作原理や加えられる振動の種類などを解説しましょう。

動電型振動試験装置

現在主流となっているのは動電型振動試験装置です。

これは「フレミングの左手の法則」を利用して振動を起こすタイプのものであり、磁石を設置した本体にコイルを置き、電流を流すことで振動を発生させます。

高い周波数の振動を加えられ、応答性も良いことから、現在主流の振動試験機です。

油圧式振動試験機

油圧を利用して振動を発生させる油圧式振動試験機は、ストロークが大きな振動や、強い振動を起こすのに向いています。

特にパワーが求められる場面では動電型振動試験機よりも安価であり、輸送試験などで使われることが多い振動試験機です。

一方で高い振動数が発生させられなかったり、ランニングコストやメンテナンス費が高かったりといったデメリットがあります。

機械式振動試験装置

機械式振動試験装置は購入コストが低いのがメリットです。ただ、振動のコントロールがしづらく、規格に沿った振動試験は難しいかもしれません。

加えられる振動の種類

振動の種類は振動源によって異なるため、振動試験機も多彩な振動の発生に対応しています。

ファンやモーターなどが源になる、一定の周期で起こる振動を再現するのが正弦波振動試験です。同じ振動を長時間発生し続けることもできますし、モーターの回転数の変化を想定した周波数の時間変化を起こすこともできます。

道路の凹凸などが原因で起こる、振れ幅や周波数が一定でない振動を発生させるのがランダム波振動試験です。現実に起こる振動の多くはランダムであり、さまざまな製品で必要となる振動試験といえます。

瞬間的に強い振動が発生することを想定したのが衝撃波振動試験です。荷物が落ちた、車がぶつかったといった状況を想定した試験で用いられます。

大型のものから小型のものまで

振動試験機の大きさは多種多様です。

大きなものでは貨物、鉄道車両搭載部品、航空産業、宇宙産業でのニーズがあり、1m角の試料台を持つ振動試験機も存在しています。

一方で電子回路のハンダづけチェックなど、小型振動試験機のニーズも高く、卓上振動試験機やハンディ型振動試験機などが登場。振動試験機はますますバリエーション豊かになっています。

温度条件を変えながら試験できる複合環境振動試験機も

製品が使われる環境は、振動だけでなく温度/湿度といった条件もさまざまです。このため、温度や湿度を変えながら振動試験ができる複合環境振動試験機と呼ばれるものも存在します。

自動車向けなどさまざまな環境で使われる部品の振動試験で活躍するでしょう。

振動試験機のメリット

振動試験機を使うメリットを解説します。

市場不良を減らせる

製品が実際に消費者などの利用者にわたってから故障が起きた場合、メーカーはその製品の回収や修理、不具合の修正に時間やコストを費やすことになります。

故障が多発すればメーカーのイメージダウンも避けられませんし、製品によっては故障が人命に関わることもあるでしょう。

振動試験機を使ってあらかじめ振動試験をおこなっておけば、振動が原因で起こる故障を減らせます。

また、JIS規格に沿って試験をおこなえる振動試験機であれば客観的なデータを示せるため、故障が起きたときでも設計が原因でないことをデータとして提示することが可能です。

長期的な使用を想定した加速試験がおこなえる

振動による故障は時間が経ってから起きることもありますが、実際の使用環境でテストをおこなっていたのではいつまで経っても製品開発が終わりません。

振動試験機を使って連続的かつ長期間にわたって振動を加え続けることで、短時間で長期間製品を使った場合の振動の影響をテストできます。

HALT(Highly Accelerated Life Testing)試験と呼ばれる、製品仕様以上のストレスをかけて製品の弱点を明らかにするテストにも使うことができ、特に製品サイクルの短い製品開発で役立つでしょう。

自動テストで人的コストを削減

振動試験機のなかには自動的に複数の試験を連続的におこなえるものがあります。スイッチ1つで試験をおこなえるため、人的コストの削減につながるでしょう。

また、試験の設定についても規格で定義されているテスト条件のリストから選ぶだけでテストファイルが自動的に作成できるものもあります。細かい数値を手入力する必要がなく、製品ごとにさまざまな振動試験を切り替えながらおこなうのに便利です。

ネットワーク接続でいつでもどこでも試験の状態を確認
自動テストに加え、有線/無線LANでネットワークに接続し、Webブラウザ経由で現在の状況を確認できる振動試験機もあります。

カメラで製品の状態を確認することができるものであれば、振動テストを開始したら事務所に戻り、そこから監視を続けることも可能です。

活用事例

設定温度環境下での振動試験に活用

自動車に使用される装備や部品などは、単なる振動だけではなく、装備や部品が使用される温度環境下での試験が要求されます。このような場合は複合試験機と呼ばれる、恒温槽内での振動試験機が不可欠です。振動試験機メーカーでは、これに対応するため恒温槽と振動試験機がセットになった装置を販売しています。振動単体でも試験可能なものや、被試験物の取り付けが容易にできるように恒温槽が可動式になっているものなど様々な用途に対応できるものがあります。

起振機として使用したい場合

振動試験機は通常、加振器にテーブルを取り付けた上で、被試験物を治具などで固定させ試験します。場合によっては、単に振動を与えたいということもあるでしょう。例えば、医療における人体(神経や腱など)へ機能回復などの目的で刺激を与えたい、模型スケール(船や建物など)など構造物の起振実験をしたい、といった場合です。振動試験機というと大型の装置を想像しますが、手のひらサイズのものや、外部に振動する部分が一切露出していないため安全に人工地震を起こすことができる画期的な起振システムなど様々な種類があります。

高価な上、頻繁に試験しない場合

振動試験機は非常に高価なものです。また設置には、頑丈な基礎、隣接する部署や近隣の住民への振動や騒音などの配慮のほか、専任に近いオペレータの配置など対応困難なことが多数あり、なかなか設備導入に踏み切れないことが多いのが実情です。さらに、振動試験をしなければいけない製造品目が少なかったり、問題が発生したときにしか使用しなかったりするなど、稼働率が低い場合もあります。このような場合はテストラボと呼ばれる受託試験施設を利用すると費用面でも環境面でも有効です。工業試験場のように装置を借りて、自身で操作して試験を行うのと違い、振動のプロによる試験や測定結果を作成してもらえるだけでなく、有償になりますがコンサルタントも受けられます。

質問集

振動試験に必要なものは何がありますか?

まず、加振器に取り付けるテーブルが必要です。正常に試験できるよう(振動が均一に伝わるよう)な設計と材料の選択が必須です。被試験物が異形のため直接、テーブルに取り付けられない場合は治具が必要です。こちらも前述のような配慮が必要です。その他、設定通り振動しているかの確認や被測定物が受けている振動の測定にピックアップと呼ばれる振動センサが必要です。いずれも振動試験機メーカーで用意しているか推奨品がありますのでご相談ください。

振動試験の種類には何がありますか?

振動試験の種類には正弦波、衝撃波、ランダム波の振動試験があります。正弦波振動試験は一定の周期を持った振動、もしくは一定の周期を掃引させながら振動を与える試験で、モーターやファンなどの固有振動数をもったものの試験に適しています。掃引試験により、その製品の弱点であるサンプルの固有振動数を把握可能です。衝撃波振動試験は、何かがぶつかったときの振動を再現する試験。ランダム波振動試験は多くの振動数成分で同時に振動させることができるため、共振現象の特性試験といった振動試験が短時間で実施できます。自動車に装備されるものの試験はこれが基本となっています。

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